フリーライターです。書き綴ったものを載せてます。


by revolver0319
 ’70年代にアメリカで書かれたバイカーノベルに出てくるバロンという主人公を知っているだろうか。一部には圧倒的なファンがいるノベルズだった。その主人公バロンは自分のブルーのチョッパーで、道を塞いだ警察の大型バスに向かい、左手を高々と上げて突っ込んでいくんだ。
それが何を表しているのか。自分達の将来か。押し付けの自由に対する反抗か。それはバイカーと自負する人が自身で読み取れば良いだろう。ともかくバロンは苛立つ気持ちを静めようとチョッパーを走らせたんだ・・・。

 差し出された名刺を見て、いきなりぐったりと疲れてしまう。
「バイカーネーム:ホーリー。mixiネーム:ホリスケ。本名、携帯番号、アドレス」
 もちろん自慢の愛車ツインカムロードキングに跨り、満面の笑みでピースサインをしている写真付だ。ビジネスカードとしての名刺ではなく、バイク乗りとしての名刺。なんだかビジネスとして名刺を渡し挨拶した自分が愚かなことをしてしまった気分になる。
 5年前に新車のツインカムを購入したホーリー君は、しっかりととした会社に勤め、休みを利用して全国のミーティングに顔を出している。mixiのマイミクは300人を超えて、そのほとんどがハーレー繋がり。どこのミーティングに行っても、最初にすることは「挨拶周り」。一人で参加しても必ず多くの仲間と飲んで、楽しい時間が過ごせる。それ以外にでも連休が取れれば、キャンプツーリングに走りに行く。そんなときは一人の夜を過ごし、そんな時間も大好きだという。
「年間1万キロ近く走りますよ。ミーティングでもプライベートでも、行ける時間があればどんどん行きます」笑顔で取材に応じてくれる彼の、どこに違和感を感じるんだろう。自分自身それが分からないままでいた。 
毎年夏に盆休みを利用して北海道を回っていたが、今年は用事があり夏に行くことが出来なかった。10月の連休に有給を足して、ホーリー君は一人北海道に向かった。一週間の旅の中で以前の旅で知り合い、その後mixiで交流を続けていた札幌、富良野、根室それぞれの仲間の家に招かれたのが3日。それ以外はテントで過ごした。寒さは関東の真冬と変わらず、夏は多くのバイクが走る道は静かで寂しさも感じたが、ホーリー君は走れることの楽しさを満喫してきた。
「僕なんかを泊めてくれれて、イクラや刺身なんか美味しいものをご馳走してくれる仲間がいることが嬉しいです。バイカーならではの『絆』でしょう。何よりも大切にしたいですね」
 ホーリー君が何度も口にする『絆』という言葉に違和感を感じていることに気がついたのは取材も終わりかけのころだ。旅を続けるバイカーはけっこう多い。中にはキャンプなんてすることなく知り合いの家を泊まり歩き、酒も飯も世話になり、知り合いがいない土地だと「次に泊めてもらえる場所はありますか」などと聞いて初対面の人に泊めてもらい旅を続ける。初対面の人間を家に入れることに抵抗を感じる当たり前の気持ちを持つ人もいるが「それがバイカー同士の『絆』だろう」と仲間に言われ断れないという人もいるらしい。そんな話を聞いたことがあった。ホーリー君がそれと同じだとは思わない。しっかりとキャンプしているし、少なくとも初対面の人の家に泊まったこともない。それでも喜怒哀楽のほとんどを共にしない『絆』という言葉の安っぽさに不自然さを感じたのだ。
「僕なんかが載って良いんですか?最高に嬉しいけど、なんだか若造なのにっていう気持ちもありますしね。でも嬉しいです」
 最後まで高いテンションで取材に応じてくれた彼は「これからもガンガン走りますすよ」と言って笑ってくれた。そのやり方に正誤があるのか。それを誰が判断するのか。どこかに疲れを感じながら彼の名刺をもう一度眺めて、ぐったりとした気持ちで取材を終えた。
☆   ☆   ☆   ☆
「アメリカと日本」「元祖と物真似」「狩猟民族と農耕民族」この20年あらゆる場面で語られたであろうそんな話はどうでもいいように思う。そんなところを掘り返したところで何も出やしないよ。確かなのはハーレーに跨って生きていること。それだけのはずだろう。
「自由はただじゃない」英語で言えば聞こえはいいさ。でもそんなこと誰でもしっているよ。走りもしないでマイミクを500人以上集めているだけの「自称バイカー」だって知ってるだろう。アメリカのバイカーと日本のバイカーの違い?そんなもの探せば無数に出てくるさ。もういいだろう、そんなこと。だって俺たちは確かにハーレーに乗っているんだから。
 バロンの苛立ちはそんなところじゃないだろう。
☆   ☆   ☆   ☆
 ショップに入るとオーナーは何だか機嫌の悪そうな顔で私とカメラマンを出迎えた。都内のシルバージュエリーショップ。店内には磨きこまれた'51年式のパンチョッパーが置かれている。フレームからキャンディーカラーに塗装され。小型のタンクやフェンダーには見事なピンスト。絞られた幅が狭いハンドル。インナースロットル、フロントブレーキレス、スーサイドセットアップでハンドルには何も付いていない。短くカットされたドラッグパイプ。流行のスタイルを取り入れたパンヘッド。
「もう4年も前にそのスタイルにしてるんだよ。最近はなんだかこんなのが流行ってるみたいだけどな」
 初対面の人間に言っているのだから大人としての常識はあまり期待しないほうがいい部類だろう。
 ショップは今年で8年目。ハーレー歴は15年。雑誌に出たことは数え切れない。通勤は車でしている。ハーレーに乗るのは年に一度、古くからの付き合いのMCが開くプライベート的なキャンプに行く、往復500キロだけだ。それ以外は一切走らない。
「最近のミーティングは変わっちまった」と繰り返して5年以上経つ。店は若いバイカーに人気で売り上げは順調らしい。店に遊びに来る若者達の兄貴分的存在で「今度一緒に走りましょうよ」と誘われることは多々あるが、
「ツインカムとは一緒に走れねぇよ」と笑う。
「おい○○は元気か?」
 俺に雑誌の代表者のことを聞いてくる。「ええ元気ですよ」そう答えると「あいつも変わらねぇな」と呟く。カメラマンの準備が整ったところで今回の取材である「オススメ商品」を何にするか尋ねると。
「あのさ。オススメとかそういうもんはうちにはねぇんだよ。昔から何も変わらないで作り続けてるだけなんだよ」そういってどこにでも売っているようなフェザーを出してきた。どうやらそれがオススメのようだ。
「そういやぁ○○はあそこのMCのボスに文句言われてるらしいな。今度俺があそこのボスに話しといてやるよ」撮影のあいだ、有名なMCや古いバイカーの名前を出しては、いかに自分の顔が広いかを語る。
 うんざりしながらインタビューを続ける。曰く。うちの商品は最近のシルバージュエリーショップとは違う。何しろ古くからやっているから。原宿のあの店の品物とうちだけが本物なんだ。と。
「ミーティングでの出店は考えないんですか?」そんな質問に。
「出すわけねぇだろう」と笑いながら言う。わけも分からずツインカムの新車買ってディーラーで衣装まで揃えちまうような奴らに俺のシルバーつけて欲しくないし、そんな奴らが大挙して押し寄せるミーティングなんかに行く気はない。昔のミーティングとはすっかり変わってしまった。そう言う。年間500キロしか走らないバイカーは98年に行ったというスタージスの話をさんざんして「あれが本物だろ」と誇らしげに言う。俺はといえばバロンが最後に見たあかね色の夕焼けを想像してみた。
 何が変わったんだい。何も変わってないぞ。ミーティングもハーレーも。それに乗るバイク乗りもな。心の中でそう思う。
 リジットショべルで走り回るハーレー歴10年の若者は、雑誌に載ることもないけれど、今日も元気にミーティングにいる。足がナックルしかない男は、今日も通勤前のキックを踏んでいる。左手で進行方向を示しながら、サイドバルブを走らせる男がいる。そうさ。いくらでもいるんだ。
 バイクに乗ることすら禁止された世界のバロン。君の行動は正解だったんだろう。俺達はどこに向かっているんだと思う。君のように飛んでいける苛立ちを抱えるバイカーはどこにいるんだろう。

 なぁ。
 教えてくれよ。
 ブラザー。
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# by revolver0319 | 2009-10-04 23:15