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by revolver0319

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ヒゲとボイン

「髭」の問題である。

昨年末のことだ。
世間様が
「忘年会が重なって大変ですよ」
なんて走り回っている頃。

組織に属していない俺はといえば、どこの忘年会に呼ばれるわけでもなく。
「『いやー毎日忘年会続きでさ。嫌になっちゃうよ』などと言っている奴らは肝臓壊せ。バカヤロウ」
などとブツクサいいながら、ひとり家で猫の頭を撫でながら缶ビールを飲んでいた。
そんな年末。

もちろん組織に属していないからという理由で、参加する忘年会がないだけで、嫌われているからどこからも呼ばれない、というわけではない、ということは強く強調させていただく。

そんな俺にもほんの少しだけ。昨年実績で言わせてもらうと2件だけ「忘年会」に呼ばれたのである。

そのうちの1件で、忘年会前に某先輩の店に行くと「何か気付かないか」と質問されたのである。

店中を眺めるが、
「そうじゃない」とのこと。

その先輩の顔をじっと見ていると、
「あっ。髭がない」
ということに気が付いたのである。

バイク乗りには「髭」確立が相当に高い。
周りを見渡せばほぼ100%に近い確立で髭だらけである。

だから、そのようなヒゲにまみれているのだから、誰かひとりが髭を剃ったところで、意外と気が付かないものなのである。
というのが俺の持論だ。

以前にも何十年も生やし続けた髭を剃った男がいたが、やはり誰も気が付かなかったということも、実際にあったのである。

だから。
「それは気付きませんよ。俺が顎鬚剃っても誰も気付きませんよ」
というと。

「大森が剃れば気付くだろ。だってお前が髭剃ったら顔から毛がなくなっちゃうんだよ。絶対に気付くよ」
先輩はそう言っていた。



そうだ。顔から毛を無くしてしまえばいいのではないだろうか。
その瞬間俺は閃いたのである。

何に閃いたのかといえば、
「キャッチ」の問題である。

街を歩いていると、世間様はいろいろと声を掛けられているようである。

美容室のモニターはいかがですか。
コンタクトレンズ安いですよ。
震災復興の募金お願いします。
などなど・・・。

頑張っているアルバイト諸君から、完全に目が逝ってしまっている怪しげな宗教がらみのものまで、多種多様なキャッチが、大きな街になればなるほど沢山いるではないか。

しかし、何故か俺はその手のキャッチにまず声を掛けられることがない。

何故だろうか。10代の頃はアメ横に行くたびに「自衛隊に入らないか」と声を掛けられたものだが、最近声を掛けられるとすると。

「ちょっとご協力いいですか」
などといいながらやって来る警察官の職務質問のみである。

そんな俺が非常に憧れているのが、新宿や池袋でしょっちゅう見かける。
「手相の勉強をしているのですが、よかったら少し見させてください」
とか。
「占いの修行中なのですが、よかったら見させてもらえませんか」
というアレである。

女子は占いが好きなようなので、そういうところに金を出しても行きたいという方もいるであろうが、一般男子は占いと聞いても「けっ」っていう感じではないだろうか。

まず金を出してまで見て欲しくはない。
見て欲しいとしたら。死ぬほどの悩みを抱えているか、よほどの思い悩むことに苦悩しているか、そんな状況じゃなければ、占いなどに行くことなんて一生ないであろう。

幸いのほほんと生きているので、死ぬほどの悩みは
「ショベルの調子がいまひとつで」レベルだし。
思い悩むのは
「おっぱい揉みたい」
くらいなので、占いを必要としていない。

しかし、ただで見てくれるというなら話は別だ。

俺に。
「よかったら占わさせて下さい」
と、なぜか妙に地味な連中が多い、その手のキャッチが近づいてきた。
満面の笑みでまず手を握り。
「僕でよければ是非お願いします」
と、力強く頷いて見せてあげるのに。

そう思いながら新宿や池袋の雑踏を練り歩いているのに、妙に地味なあの連中は、俺の前から「ささささ」といなくなるのである。

なぜ俺に声を掛けない。
そう叫びたくなるくらいである。

そんなことを何十回も繰り返せば、さすがの俺も。
「ははーん。俺にはどうやら声を掛けにくいオーラみたいなものがあるのだな」
ということに気が付く。

それはまあ何といいましても、この見た目が一番の要素であろうことは、キッパリとあきらかである。

スキンヘッドは帽子を被れば分からない。では何か。

俺の目は自分で言うのもなんだが、割と可愛らしい。
口なんかも小さめで控えめだし、絶対に日本人だよね、としか思えない低い鼻なども「根は良い奴」感を滲み出している。

まぁそれらのトータルバランスが「イケている」部類に入らないのは重々承知しているが、それでも。
「やばすぎる」程ではないだろうと思っている。

ではなぜだ。なぜ地味な連中は俺を占ってくれないのか。
研究の結果。
「髭」がよくないのではないか。
という結論に至ったのである。

そこで、先の先輩の件の後に、俺も5年以上剃らずに伸ばし続けた顎鬚を綺麗に剃ってみたのである。

鏡で確認したところ、なかなかの爽やか感、そして爽快感。
「おおっ。これなら地味な連中もぐっと声を掛けやすいだろう」
という喜ばしい感じになったのである。

で、世間様が新年会だと騒いでいる、今年の年始である。

組織に属さない俺は、どこの新年会に呼ばれることもなく・・・、以下忘年会と同じくだり。

件の先輩のところに新年の挨拶に伺うと、やはり俺の顔から毛が無くなったことにはまったく気付かなかったのである。

「よーし。これならキャッチの連中もわさわさ寄って来るはずである」

俺の自信は確信へと変わったのである。

でもって、そんなおりにせーじの写真展が新宿であるではないか。

よしよし。
なにかこう自分に向かって良い運気が回ってきているような、そんなタイミングの良さではないか。

今年はいいことありぞうだぞ。

そう意気込んで新宿に向かったのである。

もちろん時間には十分に余裕を持っての行動である。

なにしろ今日は、手相と占いを梯子して、なんなら怪しい宗教のセミナーにでも出席し「宇宙の真理」の勉強でもした後に、写真展である。

写真展の会場は東口であるが、俺は西口に出た。何しろ地味な占い連中とか、目が逝ってしまっている宗教連中は西口の駅出口からユニクロ周辺にわんさかいるからである。

俺は自己のオーラをすべて消し去り、うつむき加減にしょぼくれた感を満載にして、JR新宿駅西口を出ると、そのまま思い出横丁方面に、とぼとぼと歩いたのである。

ときどきちらりと顔を上げると、いるいる、地味なのや目が逝ってるの、おまけに今日は「私の詩集買ってください」まで揃っているではないか。よーし、占ってもらえたら君の詩集も買ってあげるからね。

俺は浮き足立ちそうになるのをぐっと堪えて、あくまでもしょぼくれて歩いた。


えー。髭というのはどこかしら「自由」の象徴みたいなところがあるのかもしれない。

昔に比べればずいぶんと世間も許容してくれているが、やはりお堅い会社勤めには髭は難しいであろうし、整えているわけでもない、伸びた髭を生やせていられるというのは、そこそこいい環境にいるからこそ出来るのかもしれない。

だから、やはり俺はまた髭を生やすのである。

あれだよ。あれほど張り切って向かった新宿で、結局誰にも声を掛けてもらえずに、予定よりもだいぶ早く写真展に行ったからじゃないよ。

そうだ、キャッチといえばやはりその本職は「ポン引き」であろう。

我が街本厚木には、それほど大規模ではないが、風俗店が軒を連ねるピンク街的なところがある。

以前そこをパトロールしていると、本職でプロ中のプロであるはずのパンチパーマポン引き連中も、俺には近づいて声を掛けようとしない。

遠巻きに、遠慮がちに。
「ピンサロいかがですか」
「キャバどうです、今なら三千円です」
などと、あっさりとした対応である。

俺の15メートル程前を歩く、2浪して今年もほぼ志望大学のすべてに落ちて、家の中で暴れていそうな、冴えない兄ちゃんには、ポン引き連中は群がるようにして、接近戦で、なんなら店の中に引きずりこもうかくらいの勢いなのに、俺には半径2メートルには近づかずな対応なのである。

俺にも群がれよ。
もっとぐいぐい誘ってこいよ。
そしたらパトロールだけのつもりだけど、なんならちょっと入ってみちゃうかもしれないだろう、そんな気分で歩いていたことがある。

それでもポン引き共は魚介風味あっさり系な対応でしか俺に声をかけず、ついにピンク街も終わろうとしているときである。

ロンリー気分でしょんぼり歩く俺に向かって、その通り最後に立っていた。そしてやはり2メートル向こうから、あっさりとではあるが。
「オッパイいかがです、オッパイパブ。厚木最安値ですよ」

そこで俺の足はピタリと止まった。
「君、今、なんと言ったのだね」
近づいてこないポン引きのすぐ横にこちらから近づいて確認すると。
「オッパイパブです」
そう答えた。

そこからしばらく、俺のオッパイ感を丁寧に説明してやり、そんな俺を満足させることは出来るのかね、ということを聞いてみた。

数年前にそんなキャッチとのやり取りもあったな。

そうだ、今度新宿に行ったら、俺のほうから妙に地味な連中の手首をがっちり掴み。
「占われたいのですが、よかったら占ってもらえませんか」

髭面で迫ってみよう。
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by revolver0319 | 2013-02-07 15:12