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by revolver0319

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走れ、はしれ

 岩手をすぎたあたりで風が一気に冷たくなる。最後の給油を済ませ東北道も終わり青森の港を目指すのみ。4台は順調に走りフェリー乗り場に昼に到着した。
「まーちゃんおれおれ。今青森だ。次のフェリーに乗るから3時には会えるな、もうチョイ待っててくれ」
 函館の港で一晩待たされているまーちゃんはアイアンの横で、お湯の中に直接コーヒーを叩き込む、荒っぽいがうまいコーヒーを淹れて4人を待っていた。3時なら旭川まで今日中に行けるな。しかも下道だけで楽勝だな。待たされすぎたまーちゃんは電話では文句は言わなかったが、真っ暗な北海道の道を旭川までかっ飛んでストレス発散しようと考えていた。しかもなるべくタイトな峠道を頭の中のナビで選ぶとひとりニヤニヤとしていた。
 その道は4人が「もう走りたくない」と根を上げても寒さで走りきらなければ、どうにもならないような道だ。もちろん道幅はUターンするのも厳しいくらいだし、フィルシィのサイドカーは進むしかできないようなところだ。まーちゃんをイラつかせるとはどういうことか。シゲは十分に分かっていたはずなのに過ちを犯したのである。
「よしよし、いい道があったぞ」北海道の道のすべてを知り尽くしているまーちゃんは取って置きのハードランを完璧に組み上げて、お湯の底に沈んだ挽いたコーヒー豆を残して飲み干すとまた少し笑った。
 ついた瞬間地獄のようなランに巻き込まれるとは知らずに、4人は短いフェリーでの船旅を楽しんでいた。そう。楽しんでしまっていた。
 フェリーが函館に着くと、まーちゃんはアイアンに火を入れて暖気をする。何しろこれから旭川まで一気に走るのだ。それに3時間後までには最後のスタンドがある街まで行かなければ、ガソリンが持たないので誰がなんと言おうと3時間で300キロ以上を走ることになるのだ。エンジンをかけると軽く屈伸をした。
 シゲのショベルを先頭に誉、ミヤビ、最後にフィルシィの順番でフェリーから出てきた。挨拶だけ済ませてすぐさま走り出そう。まーちゃんの計画はシゲと握手した瞬間にもろくも崩れた。
「やー。まーちゃん待たせたね」
 そう言ったシゲの口からはとんでもないアルコール臭が漂ったかと思い、握手をした瞬間にシゲが横を向いて吐いたのである。しかも大量に。
 初対面である誉やフィルシィはそんなシゲを心配することもなくまーちゃんに挨拶すると「どこにテントを張れば良いですか。どこがいいのでしょうか」と一応は初対面だから気を使っているのであろう、駄目な酔っ払いの口調で聞いてきた。
 ミヤビの説明によるとこうだ。
 フェリーに乗った瞬間、今日はまーちゃんとおそらく札幌までは走るだろうから、ビール1本だけお疲れということで飲もうとなった。しかし数秒で1缶を飲み干したシゲと誉が「自己責任」なんて言い出して2本目に手を出したのである。
 ここまでの文章を読んでフィルシィがしっかり者なんて思っている人もいるかもしれないが、しっかり者は本気でアウトローバイカーになろうなんてしない。酒を飲んで人を殴らなくなっただけで、酒は大好きなのである。二人が飲んでいるのをみて我慢できるはずもない。
「ミヤビ。売店にあるビール全部買って来い」最終的にそう言ったのはフィルシィである。3時間の船旅で売店の缶ビールを飲みつくしたのである。シゲはその後ワンカップ5本を「締めだから」と呂律も怪しく言いながら飲んだのである。
 走れるはずもなかった。フェリーから無事にバイクを出せただけでも奇跡だった。吐いて倒れたシゲをみんなで草むらに転がして一応寝袋をかけてやり、みんなはフェリーのターミナルの建物の中で一晩寝て酔いを覚ますことになった。
 まーちゃんは気持ちよさそうに寝ているシゲの顔にまたがり一発屁をかますと、ターミナルの売店でビールと鮭トバを買って飲みだした。
「こいつらには要注意だ」自分にそう言い聞かせながら。
 
何しろフェリーから降りてそのまま寝てしまったのが午後3時である。夜中の2時に寒さで目を覚ましたシゲは他のメンバーを探したが見当たらない。バイクはあるから置き去りにはされていないことは分かったが、そこがどこだかを思い出すのに15分かかり、猛烈な喉の渇きでふらふらと立ち上がるとフェリーターミナルに飲み物を求めて歩いて行く。
販売機で水と緑茶とコーラの3本を一気に飲み干すと、どうにか落ち着きを取り戻し、その場でもう一度眠ろうとしたが眠れない。ベンチで眠っているまーちゃんを見つけると気持ちよさそうに寝ているのにぐいぐいと身体をゆすりお越しにかかる。
「何時だよ」まーちゃんが目をこすりながら聞くと。
「まーちゃん久しぶりだな」とフェリーから降りたときの挨拶をすっかり忘れているからもう一度挨拶をすると。
「腹が減ったからラーメンを食べに行こう。どこかラーメン屋あるだろ」なんて言い出した。
「いや。だから今何時なの」殴ろうかと思ったが我慢してもう一度聞く。
「2時」つまらなそうにシゲが言うと。
「函館にはそんな時間にやっているラーメン屋はない」そう言ってまた眠ろうとする。
「じゃあ面倒だからススキノまで走ろう。そうすればあるよラーメン屋。そんでまーちゃんの家で寝よう」
 言うが早いかシゲはみんなを叩き起こした。
「皆様出発です。これから札幌まで走ります。ノロノロしていないで5分で準備してください」
 秋の北海道。道南とはいえ夜中の3時ごろである。全員ぶるぶると震えながら国道5号線を走る。しかも「寒いからさっさと行こう」と先頭のまーちゃんはビュンビュン飛ばす。
「ラーメン、ラーメン」シゲだけは元気である。
「死んでしまえ」全員がシゲに対してそう思っていた。
 羊蹄山が見えたころ東の空が紫にかわり、広い空を見たこともないようなきれいなグラデーションで染めて行く。吐く息は白く寒さは変わらないが、その瞬間「来てよかった」と全員が思っていた。
 太陽が顔を出すと、今まで見えなかった雄大な大地が姿を現す。どうにか北海道にたどり着いた。ニセコの道の駅で熱い缶コーヒーで一服するがみんな口数が少なかった。それぞれがそれぞれの思いを噛みしめていた。
「やっと来たぞ」
「もうすぐだ」
「全員が揃えば本当に復活だ」
 ひとりひとりが熱い思いを胸に、目の前に広がる景色を見ていた。
「腹減ったな。早くラーメン行こうぜ」
 フィルシィが杖を握りなおした瞬間シゲはその場から素早く逃げて、みんなに見られないように目を擦った“走れ、はしれ”そう呟いて。
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by revolver0319 | 2010-04-27 18:24

走れ、はしれ

 東北道の4人は翌朝からまた走り始めた。退屈な高速だが、青森まであと300キロばかり。半日で着くだろうから、シゲもフィルシィの杖でぶっ飛ばされる回数も少ないだろう。
 さて、4人が高速のサービスエリアで飲んだくれて周りの迷惑も顧みずにそこらで野宿し、安らかな眠りを楽しんでいるときだ。
 日本海に浮かぶフェリーの中。真夜中でみんなが寝静まっているか、数人が酒を飲んでいたり、風呂の中でノンビリしているときに、「乗降船時以外は入れません」と書かれた一般乗客立入り禁止の札を無視して、車が置かれている車両甲板に入り込んでいる男がいる。非常等以外の光がないので、頭にヘッドランプを付け、手にはマグライトを握り八墓村みたいな格好である。
 車の間をすり抜けると一台のバイクの前にかがみこみ息を殺す。乗組員に見つかれば面倒だ。しばらくそこで様子を伺うが人の気配はしない。工具を広げるとプラグを外しポイントカバーを開ける。バイクはゴミ箱も驚いて逃げ出しそうなほど汚らしく色々なものがぶら下がったり張り付いたり。元の車両が何なのかはまったく分からないが、なんとかショベルヘッドであることだけが分かる。八墓村の正体はRATと呼ばれるごみのようなラットショベルに乗る男である。バイクもおかしいが髪形もちょっとおかしなこの男はショベルの修理に真夜中に車両甲板に入り込んできたのである。
 本来の計画ではタカオというショベルチョッパーと2台で和歌山から敦賀に向かい、そこからフェリーで苫小牧に向かう予定であった。しかし走り出してすぐにアフターファイヤーが派手に鳴り出したのである。走れるところまで走ったが、敦賀はまだまだ遠い。ポイントを換えてみたが駄目。プラグはいつでも20本は持っているので換えてみたが駄目。コンデンサーも違った。キャブをばらそうかとも考えたがそこまでするとフェリーに間に合わなくなる。何しろキャブを外す前にいろいろなものを外さないとキャブが見えないバイクなのだから面倒臭い。
 タカオも手伝っていたが、時間はどんどん過ぎていく。
「タカオちゃん先に行っていいよ」
 ついにRATが口にした。
「そうは行かないよ。二人で何とかしよう」普段のタカオならそう言っただろうが仕事の関係で行ってもすぐに帰らなければならないスケジュールだし、今回だけはどうしても北海道に行かなければならない。
「みんなが会うところを撮影編集しろ」というシゲからの命令も出ている。
 すぐさま自分のリジットショベルをキックすると「じゃあ先に行ってる」とすごいスピードで走り去ってしまった。RATは点目でそれを見送ると地元のトラックを持っている友達に連絡して迎えに来させると。
「舞鶴まで運んでくれ」と頼み込んだ。敦賀からのフェリーには間に合わないが、その後にでる小樽行きの舞鶴からのフェリーなら間に合うと調べていたのだ。トラックで運ぶと、押してフェリーに乗船し、小樽に着くまでにバイクを直し走るという賭けにでたのである。そして旭川でタカオと再開して驚かせてやろうとも考えていた。そんなサプライズが好きなのである。もっとも自分のバイクのサプライズトラブルばかりに驚かされているのだが。
 夜中の車両甲板。エンジンをかけることができないのがつらいが、ともかく圧縮上死点を探すとポイント、コンデンサーを新品ににし、レギュレーターとコイルも新品に変えた。次にキャブをばらし、一通り掃除をして組み上げる。ガソリンが正常に流れているかを確認し、最後にプラグに火が飛んでいるかを確認して、元気に火花が散るのを見て安心する。
「少しだけなら」なんて考えてエンジンをかけようと試みて、空キックを3回。スイッチを入れると気合とともにアクセルを捻りキック。その瞬間猛烈なケッチンを食らい足を抱えてその場に倒れ悲鳴を上げた。
「何しているんですか。立ち入り禁止ですよ」そのときに上船員見つかり、強制的に客室に戻された。
 翌日の午後、小樽に到着。走るはずだ。頼む走ってくれ菊千代(RATショベルの名前)と願いながら甲板に。固定されたタイダウンが外されるとすかさず空キック。スイッチを入れようとするとすでにONになっている。
「????」なぜか。そう、昨夜そのままで強制退場されたのでONにしたままだったのだ。幸いコイルなどは無事のようだがバッテリーは上がっている。事情を話しフェリーで急速充電してもらいまたもや押して降りることに。港でキックをするとラットショベルはエンジンに火が入った。
「今のうちだ」妙な焦燥感のなかでRATは走り始めた。ちなみにタカオは無事苫小牧から旭川目指し走り始めていた。
「やっぱりロングはRATと一緒じゃないほうがいいな」なんて考えながら。
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by revolver0319 | 2010-04-27 13:17

走れ、はしれ

 フィルシィとターキィーの面倒くさい関係と、そこから流れ出した人間関係の場合。

“人間の器”というものがある。
「あの男は器が大きい」とか「小さい」とか言われ、大きければ立派で小さければどうにも情けない、そんな使われ方をしていて、おおむね器の大きさは大きければ誰に対しても、どんな状況でも「大きい」し、小さければどこまでも「小さい」のが普通なのである。
 北海道は旭川。ターキィーという男がいる。この男はこの器の大小を使い分ける、というか自動スイッチによって切り替わるという非常に珍しいタイプなのである。どこでスイッチが入れ替わるかというと、それは簡単で「人による」のである。
 人間の好き嫌いは誰にでもあることだしそれはいい。あいつには優しくできても、あいつにはできないというのは誰にでもあることだ。それでも本音と建前を使い分けることで、なるべく波風を立てずに穏やかで潤滑な人間関係を構築するのが一般的である。
 ターキィーの場合はスイッチが大に入っていればどこまでもその人間の面倒も見てくれるし、仲間として大切に扱ってくれる。そして基本的には「大」に入っていることが多いのである。しかしこれが「小」に入ってしまうともはや手が付けられない。
「お前は嫌いだ」くらいを堂々と宣言するのは当たり前。口より先にコブシが飛び出すのも珍しくない。そうなったらもはやこの男と仲良くなるのは至難の業だろう。
 例えばこんなことがあった。
 北海道のあるミーティングでのことだ。せっかく自分たちのテントに遊びに来てくれた見ず知らずの人間に「いいか。同じハーレーに乗っているからって友達になれると思うなよ」なんてあまり言いたくはないという、普通の感情は持ち合わせているから、最初から見ず知らずの人間が近寄らないオーラを発しつつ、自分たちのチームで楽しんでいた。
 チームというのはバイク乗りの場合概ね「MC」モーターサイクルクラブを指すのだが、ターキィーが属している「ハチェット・ハックス」は「ST」SCOOTER TRIBEという集まりである。スペルや意味などは興味があれば自分で調べるといい。ともかく、そういったところのこだわりを押し通しているところなど、この男の性格の一部である。
 ミーティング会場でチームの若手が酔っ払い少々行儀が悪くなった。ターキィーはそれをひどく怒り、殴ろうとした。もちろんターキィーも相当に酔っていたが。そこにミーティング主催の関係者が「まぁまぁ」と止めに入ったのである。この止めに入った人はターキィーとは以前から知り合いである。
 この状況を冷静に見てみよう。とくに誰も悪いようには感じない。楽しいミーティングで飲みすぎた若手にしても、そのくらいならよくある話である。それに対して教育しようとしたターキィーも酔っているとはいえ、いつものことである。それをみて「かわいそうだからやめてあげてください」という主催関係者も当たり前のことをしただけである。
 だが、この瞬間残念なことにターキィーのスイッチが「小」に切り替わってしまったのである。
 後は文章にするまでのこともない。暴れだしたターキィーを止めようなんていう度胸があるなら、都内の大渋滞の道をフロントブレーキレスのスーサードジョッキーで100キロで走るほうが安全である。一通り暴れたターキィーは酔いと程よい疲れでぐっすりと眠り、翌朝起きると止めに入った主催関係者にたいして「小」のほうの分類に入れていた。それだけのことである。よく覚えていないけれど「だってあいつら面倒臭いべ」という理由でそれ以来「嫌い」に分類されてしまっているのである。
 そんな男ターキィーにも長年思い続ける課題があった。それは「俺と同じくらいややこしい奴がこの世にいるのか」ということだ。いろいろと想像してみる。そんなやつがいたら殴り合いになるか、殺し合いになるか。まぁどちらにしろいいことはないだろうが、それでもそんな奴に会ってみたいと考えていた。
 ハーレーとそれに関する話題の中でもいろいろなジャンルがある。ノーマル・チョッパー。旧車・新車。ノンビリ・飛ばす。それぞれの好きなものがまったく違うから、一見同じような見た目のハーレーでも趣味が180度違うなんていうことも珍しくない。
 あるときターキィーは凝り固まったパーツを集めている奴がいるという情報を得た。ちょっと聞きたいこともありそいつに連絡を入れたのである。パーツを集めていた男はフィルシィ。
酒を飲んでショベルでかっとんで気に入らない奴を殴る。アウトローとはそういうものだと思い込み、本物のアウトローになるべく毎日それを忠実に繰り返していた男である。集めたパーツは自分のもので売ることなどあまり考えていない。それどころか「フィルシィさんすみませんがパンの純正パーツを探しているんですが」なんていってくる奴がいると。
「パンってなんだ。食パンかクリームパンか。それならジャムおじさんのパン工場に行け」などと言い出す始末だ。
「いや。ハーレーのパンヘッドです」
 なんていい返そうものならその瞬間胸ぐらをつかまれて。
「いいか小僧。俺の知ってるハーレーはショベルヘッドしかねぇんだ。ショベルがハーレーだ。それ以外を俺の前で口にするな」なんて言い出すのである。
 慎重が180痩せてはいるが、アウトローになるべくヤクザを向こうにまわすような商売をしているのだから、目つきや迫力はハンパではない。しかもそんな対応は機嫌がいいときの対応なのだ。ヘタにショベルのパーツが欲しいなんて言おうものなら。
「てめぇ、誰に俺がパーツ持ってるって聞きやがった。いえ、いえ。そいつの名前を言え」などと殴り続けるのである。
 そんな二人が電話とはいえ遭遇してしまったのである。冷戦当事にソビエトがアメリカに核を発射するのと同じくらいに危険であろう。
 しかし、神は地球を救ったのである。ターキィーの最初の質問にフィルシィは「ただ者じゃない」と感じたのである。ちなみに最初の質問はアインシュタインの理論を理解するのと同じくらいの時間が必要になるようなことなので知らないほうがいいだろう。
 その電話で半日話し合った二人は、おそらく地球には存在しないであろうと諦めかけていた「同じ価値観」の同志を見つけてしまったのだ。
 フィルシィがすかさず旭川に飛んだのは言うまでもない。では旭川でどんな話しがされたかは、ホーキング博士が理解している宇宙のことをすべて覚える以上に面倒臭いことなのでここでは省く。
「必要なパーツがあれば言え。すぐになんでも用意する」
 フィルシィはターキィーにそう言ったのである。ソビエトがアメリカに「必要なら我が国の核弾頭を分けよう」と言ったようなものである。
 この二人の作り出した渦がいろいろなものを巻き込んでいくとはまだ誰も知らなかった。
 フィルシィはその後アウトローになる努力を益々頑張り、ついには飲んで飛ばしているときに車とぶつかり空を飛ぶという離れ業を繰り出し、ある意味本物のアウトローになった。その代償にしばらくはバイクに乗れない身体にされてしまっていたが。
 フィルシィが事故から立ち上がり、今に至るまでを書くくらいなら、パソコンのICチップをハンダゴテで作るほうが簡単だろう。ともかくフィルシィはお仕着せのなぐさめと、同情と、説教と、生きているだけでありがたいだろうと一日30回くらい聞かされて「頼むから誰か殺してくれ」と願いながら這いずり回り、そこから抜け出したのである。自己責任という意味を身体に刻んで。
 事故を起こしてからすべての連絡を絶ち、姿を消していたフィルシィは誉と出会い、シゲと再会し、ターキィーに「なんで連絡しなかった」と少し怒られ、またバイク乗りに囲まれる生活に戻った。
「俺たちは兄弟分だ」初めてシゲと二人で飲んだときにシゲがそう言い出した。だから兄弟分だと契った。シゲがなぜそんなことをいきなり言い出したかは分からない。あまり脳で考えている気配が感じられないが、まぁシゲの野生の感なのであろうが、そんな関係が結ばれている。
「ぼちぼちバイクを直してみるかな」北関東の山の中で仙人のように暮らすフィルシィがシゲにポツリともらした。
「乗れるわけねえだろう」そう笑われるのではないかと考えていたが。
「とっとと掛かってさっさとな直せ」シゲは串カツにソースをたらしながらそう言ってくれた。
 もっとあとから聞くと串カツのことは覚えていたが、その話のことは何も覚えていなかったが。
 そこからフィルシィはショベルを修理し始めた。片手しか使えないからボルトを外すのにも手間取ったし、ジャッキが外れて潰されそうになったが、少しずつ、時間をかけて少しずつ。
「何か手伝うか」フィルシィの家に来るとまずその日のツマミを作るシゲが聞くと。
「自分のチョッパーは自分で面倒を見るのが信条でな」とかっこよく答え振り返るが、シゲはウグウグとビールを飲んで魚肉ソーセージを齧っているからあてにはしなかった。
 それから数年絶ちシゲのケータイが鳴った。
「走るからお前ちょっと船に乗ってくれ」
 フィルシィがぶっきら棒にそう言った。
 浅間山がきれいに見える晴れた日だった。夏の暑さが身を潜め群馬の山の木々が色付き始める直前だ。
「イケー、飛ばせー。ハシレー」
 サイドカーの中で叫ぶシゲの声にかき消されそうになってはいたが、フィルシィのショベルはきれいな三拍子を刻み、ノンビリとだが近所を走った。
 夢にまでみた復活。フィルシィがバイクで走るということは、そのころにはもはやフィルシィ個人の問題だけではなく、それは日本中に散らばっているバイカーたちの待ち望んだ日でもあった。シゲが撮りまくったフィルシィの走る姿がみんなにメールで送られたのは、その二日後だった。なぜならサイドカーで走った日に「復活の祝福」という名目で二人で黒ラベル500缶を2ケース開けてしまい、その翌日も死にそうな二日酔いで動けなかったからだ。
 メールには写真とともに短い文章が添えられていた。
「走るしかないだろう。北海道に向かって」
 旅が始まる準備は整った。
 
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by revolver0319 | 2010-04-27 12:09

走れ

シゲの場合。
 シゲにはゆうちゃんという3歳年下の従兄弟がいた。昭和のベビーブームが終わったころの生まれだから、親戚やら従兄弟やらはたくさんいたが、なぜか子供のころはゆうちゃんと気があって、会うと仲良く遊んでいた。
 もっともシゲの父親が「一旗挙げよう」なんて考えて川崎というどうにもならないような街で暮らしていて、ゆうちゃんは大森家の地元である茨城の片田舎で暮らしていたので、夏休みや冬休みにしか会えなかったが、それはそれで子供心に最高の楽しみであった。
 シゲが小学3年生の夏休みだ。その年いつものように家族で帰郷して、ゆうちゃんの家にも遊びに行ったとき、納豆や鮭が並んだ朝ごはんで、ゆうちゃんはいつものおかずに、いまひとつ浮かない顔をしていた。すると。
「バターで食べる」などとわけの分からないことを言い出したのである。
 シゲは頭の中で整理しようとした。バターで食べる。ご飯をやめてパンにするということか、ここまでご飯の支度ができているのにそんな甘えが許されるのか。そんな考えが頭の中を駆け回っているその目の前で、ゆうちゃんは熱々ご飯にバターを乗せ醤油をたらすという、まったくもってこの世の常識を根底から覆すようなことをしたのである。
「・・・。・・・」めを丸くするシゲに。
「シゲちゃんも食べる」とゆうちゃんのお母さん、つまりシゲの父親の妹がそう聞いてきた。
「な、な、なんだそれ」シゲは気持ち悪さ半分、好奇心半分でその「バター醤油ご飯」にチャレンジしたのである。
 一口で口に広がるバターの香り。そのなかで舌を刺激する醤油の味が絡んでくる。咀嚼して飲み込む。
「う、う、う、うまい」シゲは初めての味に思わず呟いた。何よりも食べ終わった後に口中に残るバターの油のギタギタ感がたまらなかった。
 昭和40年生まれは政府が「もはや戦後ではない」と宣言したところで、まだまだその気配が色濃く残り、野菜や魚が中心の食生活で、カレーの中に入っている豚肉のかけらを取り合うほどだった。なのでバターの強烈なたんぱく質に身体が反応したのである。
 そしてその年の秋にもうひとつ事件が起きたのである。銀座にあのマクドナルド1号店が出店したのである。見栄っ張りで派手好きな父親は直後に寄った勢いでビッグマックをお土産に買って帰ってきた。翌日の朝。すっかり冷え切ったその「ポパイ」の中でしか見たことがなかったハンバーガーというものをはじめて食べたのである。
「肉・にく・ニク・NIKU」口の中に広がる肉。そして冷め切ったバーガーを食べ終わってからの口中に残るベトベト、ドロドロ感。
 さて。北に向かって走るおかしな男たちの事情を話しているのに、なぜそんな昭和の食糧事情を解説しているのか。それはシゲという男を語るのに欠かせない問題だからである。この幼少期の口中ベトベト・ドロドロ感を追い求めた結果が今のシゲであるのだ。
 ハーレー、食べ物、酒、炭酸飲料、長島監督、ルイスビルスラッガー。シゲを形成しているのはそんなところだ。そしてこの男の走る理由はどうにも説明しづらいのである。いろいろな要素が交じり合い、フィルシィという男と走り出すのだが、偶然が重なったのか、狙ってそれを演出したのか、それともただの天然なのか。この男はどうにも読めない。
 なのでへんな説明をするよりは物語の中から、この男の本質を読み取るほうが良いだろう。
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by revolver0319 | 2010-04-22 00:23

走れ、はしれ

 それではこの辺で、このおかしな連中が旅に出た理由でも説明しよう。「走りたいから」なんていう理由だけでは、大の大人が社会の枠から飛び出すには重みがなさすぎるだろう。

 ミヤビの場合。
 この若者の人生を狂わしたのは北海道ツーリングだった。それまでは先祖の墓のある鹿児島に向かい、九州を旅するのが毎年夏の恒例行事だったが、何を血迷ったか「たまには北にも行ってみたい」なんて考えてしまったのだ。
 東京の下町で生まれ育ったミヤビは残念なことに「学校の勉強」というジャンルに集中することができず、それならと腕力方面にその能力すべてを注ごうと考えたのが小学生のときだった。なので小学校4年生から「あのこと遊んではいけない」部門で常にナンバー1の座を明け渡さずにいた。しかし、親の気持ちなんてものを理解する子供なんてそうそういるはずもなく、ミヤビの周りにはいつも悪ガキどもが集まっていた。
 確認のために書いておくと「頭がいい」=「学校の勉強ができる」だと思っているバカが多いが「学校の勉強ができる」=「損得勘定だけで生きられる」でしかないことは、これを読んでいる人なら知っているだろう。
 悪がき集団が生きていくのに避けて通れないのが「対立」である。力で勝つか負けるかの分かりやすいものもあれば、それぞれの先輩や地元勢力なんていう政治力で戦わずして勝負がついていることもある。その中でも負けるしそれをすることで敵が倍増してしまうが、やらなければならない戦いもある。そんな繰り返しの中で、何が正しく何が間違えているかの判断力が鍛えられる。その判断力こそ「頭の良さ」だったりする。だからミヤビは幼少からそんな環境で育った頭のいい男でもある。
 ハーレーという乗り物を選んだことも、それをバックボーンに生きようと考えたことも頭がいいからである。
 その頭のよい男がなぜか北海道を選んでしまった。その夏の北海道を楽しみ、順調に走っていたが旭川の街に入るとなぜだかバイクがぐずり始めた。この年だけ行かなかった墓参りをさぼったから先祖の怒りをかったのか、ついにはバイクが止まってしまった。
 ツーリング先でバイクがトラブルよくある話かもしれない。しかしそこが旭川という街で会った偶然。そして道端のミヤビを見つけ、止まったハーレー乗り。でかい身体でいかつい男。
“知らない街だし絶対に手を出すな”
 その男を見たときにミヤビは自分に言い聞かせていた。それほど身体のでかいその男は危険な香りを漂わせていた。
“きっとケリからくるな。両腕で顔面をカバーして、立ち上がって逃げるしかないな。襟首をつかまれたら仕方ないから一発だけショウテイを入れた走る”ミヤビがシュミレーションしているうちに男は近づいてくる。腕を伸ばせば簡単に殴れそうな距離に近づくと。
「どうした。トラブルか?」
 男は身体に似合わない優しい声で聞いてきた。背中には2本の斧がクロスしたカラーを背負っていた。
 男の名前はT「ハチェットハックス」というMCのボスだった。
 数年間かよった九州をやめてたまたま北海道に走った。
 たまたま旭川でトラブった。
 たまたまTが通りかかった。
 悪魔の仕業という言葉以外の例えがあるなら教えてもらいたいぐらいだ。こうしてミヤビはターキィーの元へ行くことになり、その厄介なカラーを背負うことになる。頭のいいミヤビがやらかした人生で最悪の失敗といえるかもしれない。
 そんなこんなでミヤビは北海道に縁ができるのだが、それ以降毎年夏には旭川に走っているのだから、今回の旅にでる理由にはならない。
 それを紐解くには彼の実家の話からしなければならない。かれの家は代々続く厄介な家業なのである。内容はそれだけで小説の5冊くらい書けてしまうのだが、今回はそんな時間はないので省く。ともかくその家業を継ぐのか、それとも自分のやりたいレザークラフトの仕事をやるのか、そんな分岐点に立たされていた。
「昔はよかった」
 今の時代どんなものにでもその言葉は当てはまるが、ミヤビの実家の家業にも当てはまる。地元のみんなとうまくやり、一般人が困ったことを解決してきた。そんな家業でも大きな家の当主は「一日警察署長」なんてことをやったこともあるのだ。それがどうだ。好き勝手に中国人やら分けの分からない国の人間を入れてしまってめちゃくちゃにされると暴対法、指定団体、等などの締め付けに躍起になってくる。
 検挙率を高めるには検挙しやすいところを挙げる。そんなくだらないやり方を押し通す警察。ついにはミヤビの父親にその毒牙が迫ってきた。戦うこともできずに負ける戦いなのは分かっている。だけど父親をみすみす渡すわけには行かない。
「俺が行ってくるよ」ミヤビが宣言した。もちろん父親もその子分たちも反対したが、自分が何をすれば世の中が良くなるかを知り尽くしたミヤビである。それを無理に押し通した。参考人から重要参考人に。任意から逮捕へ。ミヤビが拘束され拘置所から一時保釈。裁判が始まり半年後の結審が決まったそんな時期だった。最悪懲役。よくて執行猶予。
 そんなときにシゲから連絡が来た。
「ミヤビ。北海道に行くぞ。準備しとけ」
「都合は?」とか「行けるか?」ではない。国家レベルの嫌がらせでも裁判があり三権は独立し人権を守るふりをするのにシゲの言葉には余地がない。それでも事情を知っているから誘ってくれているのだろう。それにシゲは最後に嬉しそうに、こう付け加えた。
「フィルシィが走り出す。来年まで待てねえからすぐに行こうぜ。アニキに会いに」
 目頭が熱くなった。
「行きますか」笑い泣きの声で答えた。
 だから足リ出している。
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by revolver0319 | 2010-04-21 01:53