フリーライターです。書き綴ったものを載せてます。


by revolver0319

走れ、はしれ

 3台は走っていた。東北道という真っ直ぐで退屈なハイウェイせいか。それともこの三人が揃えば必ず飲むことになるその習慣からか、各自が「そこらで休んでのんびり飲みたい」と考えていたが、旅とは進まなければ始まらないものである。だから歌ってみたり、エロ妄想を膨らませてみたり、今夜のつまみを考えてみたりと、各自が好き勝手なことをしながらアクセルを捻っていた。
 仙台の出口手前で、なぜかオイルで車体全体を汚したADバンを追い越すと、先頭を走るフィルシィが、遠くにパンヘッドの後姿を見つけた。“ホマレだ!!”退屈していた単調な走りの中でテンションが上がる。アクセルを捻り加速すると、後ろを走るシゲとミヤビも気がつき加速。ホマレの後ろ30メートルに付けたところでフィルシィがブレーキをかけると、ハンドサインでシゲに前に行けと合図。前に出たシゲもすかさずミヤビに前に出ろと合図。ミヤビも先頭に立った瞬間スピードを落とす。
 ホマレのパンから吹き出すオイルで、後ろは走れたものではない。シゲが右車線の中央分離帯ギリギリで加速すると、二人もその後を追いホマレを追い抜く。
「おー、おー」ホマレは3人に気がつくと、黄色いジェットヘルの下で満面の笑みを作り手を上げる。しかし3人はそれに答えることなく、なかば身を伏せるように素早く追い抜くと、次のパーキングに飛び込んだ。
「そのオイル漏れは危険すぎるぞ」
 フィルシィがそう言って船からありったけの工具を取り出す。
「ガッハハハ。やっぱりやばいか」ホマレは豪快に笑い、4人はどうにか合流した。
 二輪駐輪場を独占するとホマレのパンオイル留め作業がはじまった。フィルシィがベースナットを指で回してみると簡単に回ってしまう。
「あうー。オイル漏れじゃねえな。オイルを捨てているようなもんだ」フィルシィがつぶやき、みんなでボルトを締め付ける。
「おいシゲ。お前トルクアダプター持ってただろう?」
フィルシィが振り返るとシゲがいない。勝手にツールロールを開いて探し出す。おおむねに大雑把なシゲだが、一度走り出したら必ず帰ってくるを心情にしているから、几帳面に工具を揃えている。そのくせブレーキがエアを噛んでいてもあまり気にしないが。
「こいつで締め付けてもオイル漏れが直らなけりゃここでリタイアだ」フィルシィが宣言してミヤビが締め付ける。
「いける、いける。パンヘッドは最高だから」ホマレはどこまでも根拠のない自信に満ち溢れている。
 シゲが売店から大量の焼き鳥やらソーセージやら、じゃが丸君を抱えて戻ってきた。バイクを直す3人は黙って様子を見ていると、ものすごい手際のよさでコンロを出し、なにやら調理を始める。みんな腹が減っていたから文句は言わない。ベースボルトを締めなおし、オイルを足すとホマレがキックする。甲高いエンジン音が響き渡り、シゲ以外の3人がベースを見つめる。しばらく見ているがオイルはにじむ程度だ。
「いけるな」フィルシィの宣言に。
「いやー。増す締めはしないとだめだなー」ホマレが笑いながら「これでガスケット交換はまだ大丈夫」と一人うなずく。
「あうー。」フィルシィのため息は「だめに決まってる」を意味していた。
 そのときミヤビが驚いたような顔でフィルシィの後ろをみた。フィルシィは確認することなく、すかさず杖を横払いにして後ろの気配を殴りに行ったがわずかに届かなかった。
“プシュッ”
プルトップが開く音が秋空の下に響いた。
「ウグウグウグ。プハー」黒ラベルを豪快に飲み干すシゲ。
 フィルシィのチョッパーの船に入っていた黒ラベルのケースを見つけたシゲは、その瞬間からそこが高速道路上だということや、旅の始まりだということを忘れていた。
“腹減った・ビールある・つまみ作ろう”という思考に支配されて、パーキングで売られている焼き鳥やらをひと手間加えてつまみにアレンジしていた。
「お前飲んでどうするんだ」
 フィルシィの怒りに動じることなく。
「まぁお前も飲め。今日はもう十分に走ったぞ」といいながらビールをよこす。
「そうだな。そうしよう」ホマレは笑いながら飲みにかかる。
「あうー」
仕方なくフィルシィも飲みだし、ミヤビはそこに泊まるべく準備をしはじめる。
「いやー、ついに始まったぞ。俺たちの旅が」
 上機嫌のシゲに。
「その旅の初日を終わらせてどうするんだ。まだ3時だぞ」
 フィルシィはぶつぶついうが、シゲの作った焼き鳥のピリ辛炒めがうまいから“しょうがねえ”と諦めていた。
 青森まで残り200キロの場所で、初日の走りは終わった。
 その頃、函館の埠頭でみんなを待つまーちゃんの存在はすっかり忘れて。

 それではこの辺で、このおかしな連中が旅に出た理由でも説明しよう。「走りたいから」なんていう理由だけでは、大の大人が社会の枠から飛び出すには重みがなさすぎるだろう。
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by revolver0319 | 2010-02-02 21:15