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by revolver0319

奇跡はそう簡単に・・・。パート3

「先日は溜まった書類の処理に終われて、結局ランチを食べられたのは午後の3時でした。おかげでディナータイムもそれほど空腹ではなく、アンティパストとワインを少し戴いただけでした。せっかくのイタリアンだったのに・・・。そんな私にせめてもリクエストを」

 油で汚れないようにラップで巻かれた小さなラジオは、やたら感度良く地元の酒田FMが流れている。

「何がランチでディナーだ。何がイタリアンだ。どうせクソブスのデブだろう。当分飯食わないで痩せてろ。仕事だってどうせろくでもないもんだろうが。死ね」

 午前11時を過ぎたばかりの酒田市内のラーメン屋。昼間からビールを飲みながらぶつぶつとラジオに文句を言う妙な客。しまいにはリクエストされた曲にまで文句を付けている。

 仕事もしないで昼間からビールを飲んでいる駄目人間が、ラジオのメッセージに文句を付けているのだからいい気なものである。

 昼時の忙しい時間を前に、厨房では60代後半であろう主人が野菜を刻み、同年代の奥さんはテーブルを拭いている。このままラジオを流しているといつまでもうるさそうだから、ラジオを消してテレビをつけた。

 地元のテレビ局が今日から始まった夏の甲子園予選大会の開会式の模様をダイジェストで伝え。
「それでは早速行われている試合をお送りしましょう」

 画面が酒田市光ヶ丘球場へと移る。
 大輔たちの試合中継が始まった。

「何が高校野球だ、バカヤロー。青クセー顔並べやがって。オヤジビールもう一本」

 年のころはまだ30代だろう。ぼさぼさの髪によれよれスエット上下にサンダル。痩せこけた身体で目つきは悪さを装っているが、本来の気の弱さがその奥に見える。

 どんっ。ラーメン屋の主人が横柄な口をきく男のテーブルに、乱暴にビールを置く。
「ぶつぶつうるさいよ。黙ってテレビみなよ」

 ラーメン屋の主人が文句を言うと。
男は「チェッ」と舌打で精一杯の抵抗を見せて、仕方なく手酌でビールを飲みながらテレビを見る。

 甲子園常連高がどんな試合展開を見せるのかが楽しみだと、テレビのアナウンサーが試合結果は決まっているが、どんな勝ち方をするかが見所だとばかりに喋る。

「対戦相手の山形中央は公立高校ながら、基本練習を徹底的に繰り返し、底力を持っています。なめてかかれる相手ではないです」

 アナウンサーが最後にフォローするように言う。

 男がビールを飲む手を止めた。
 山形中央は、男の出身校だった。
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by revolver0319 | 2012-08-01 23:14