フリーライターです。書き綴ったものを載せてます。


by revolver0319

久しぶりの「走れ、はしれ」

道東。釧路にあるカスタムショップの前に4台のハーレーが止まっている。それぞれが派手にカスタムされたショベル2台とパンショベルとパンヘッド。蜂がデザインされたベストをが三人着ていて、もうひとりは一番派手なパンチョッパーに跨り、ラングリッツのジャケットに、腰にはガルシアのチェーンを下げている。
「コーヘイちゃん、いいか?」
 先頭のショベルが最後尾についたコーヘイというパンチョッパー乗りに声をかける。
 コーヘイは身長180を越え長髪を後ろで束ね、剃り上げた眉に少し角度が付いたサングラスとどこから見ても堅気には見えないルックスであり、ラングリッツを脱げばTシャツからのぞく肌には隙間なくタトゥーが入っているという念の入りようだから、知らない人間が話しかけることはまずない。
 だがこの男、見た目とは裏腹に優しい男である。ここまでこの物語を読み、それぞれのキャラクターを知ってくれている人なら分かるだろうが「優しさ」は辞書を引くと出てくる「情けがある、思いやりがある、親切、温厚。他人にたいして思いやりがあり、情がこまやか」で間違いはないのだが「好きな奴に対しては」という条件が付く。
 コーヘイも変わらず好きな人間にはとことん優しく、バイカー仲間からは「北海道で困ったらコーヘイを頼れ」と全国で言われているくらいなのである。人の意見もよく聞くしそれぞれの立場を理解できる、この物語の中では歳は若いが一番大人なのかもしれない。嫌いな人間に対する接し方は書かないほうが無難なのでさけよう。そんな男が乗るパンチョッパーは、ネック角度をそのままでロングスプリンガーがそそり立つようなフロントが印象的だ。長身のコーヘイが腕を伸ばせばハンドルにとどくが、小柄な人間ならステップに足を乗せハンドルを掴むことすら難しいポジション。そんなチョッパーでどこまでも走る。ちなみにビールはスーパードライを一途に愛するというへんなこだわりもある。
 前を走る揃いのベストを着た3人は同じMCのメンバー。蜂をデザインしたカラーで全員がリジットフレームにフロントブレーキレスの本物のスーサイド。釧路の街を抜けて湿原道路に入る。片側1車線のそれほど広くないが直線の道路。そこに入った途端に先頭を走るショベルが加速する。前に車が見えると一瞬右手で合図をすると反対車線に飛び出し抜きさると、全員が綺麗にそれに連なる。車のドライバーは抜かれる瞬間に気がつくが、気がついたときにははるか前方に見える。そんな状態だ。
 先頭を走るショベルチョッパーに跨るのはカスタムショップを営む「ホーク」。チリチリパーマの髪型にバカヘルを乗せてレイバンのサングラス。北海道育ちにしては色黒なのは太陽さえ出ていれば気温に関係なくバイクに乗るからだろう。すべての道路が凍結している2月の釧路、それも真夜中にすらバイクを走らせたことがある。
「我慢できなかった」
仲間が「なぜそんな危険なことを」と聞いたときにホークは一言そういった。誰もがガレージにこもる北海道の冬に「旅に出る」と言い出し、雪に埋まる道を走り出したこともある。みんなあきれて「すぐに戻るだろう」と言っていたが、そのまま雪の峠を越えてフェリー乗り場についたことを知ると、誰もが「どんな難しいことでもホークならやるだろう」というふうに考えるようになっていた。
自分で作り上げたリジットスプリンガー。低めにセットされたハンドルとフォワードコントロールで縮こまったようなポジションになるが、それが絶妙にホークにマッチしている。スーサイドジョッキーを操りながら、ショベルとは思えないスピード域で走る。そんなハードなイメージだがラーメンとコーラに目がない。
ホークの後ろにはパンショベルチョッパーの「ケン」が続く。やはりホークが作り上げたチョッパーは低いポジションが特徴的だ。
コーヘイとほぼ同じ身長だが、痩せ型のコーヘイと違いがっちりとしたケンが跨るとパンショベルは小型バイクのように小さく見える。普段から寡黙なケンは、リジットに直付けのペラペラシートでギャップを超えるたびに激痛が身体の真ん中を走るが文句や愚痴を言うこともなく、ましてやギャップを見つけてアクセルを戻すようなこともなく、ホークの後ろをぴったりと付いていく。
その後ろにショベルリジットスプリンガーは変わらないがエイプバーに腕を伸ばしているので、前の二台とはずいぶん違うように見える。「キュー」と呼ばれMC3人の中で最年長で家庭も持っているが身長は一番低い。以前は腰にまでも届きそうな長髪だったが、就職のために髪を切るというどこかの歌の詩のようなことがあり、今では短髪の好青年に見える。もっともキューはマメな性格と誰とでも話せる人見知りしない性格で、長髪の頃から人に怖がられるようなことはなかった。
何があろうと家族を守るためと、ショベルを乗り続けるためにはなんでもするという生き方はホークもケンも一目置いている。
コーヘイを最後尾に4台は飛ばす。ホークとケンのタンクは5リットルほどしか入らない小さなものなので100キロ走ると一度スタンドで止まらなければならないが、それでも4人はかなりのスピードで距離を稼ぐ。湿原道路から海沿いの38号線に出て帯広方面に向かう。トンネルを抜けるたびに気温が高くなる。
道東の釧路は冬の雪はそれほど多くないが気温はかなり下がる。9月に雪が降ってもそれほど驚かないくらいの寒さだ。帯広でガソリンを入れるとホークは革ジャンを縫いでTシャツのベストになる。本州の人間なら「寒い」と言い出しそうな気温だけれど、素肌に風を感じられる期間の短い北海道のバイカーは暖かいことへの喜びは大きい。もっともTシャツになったのはホークだけで後の3人は革ジャンを脱ごうとはしないが。
コーヘイが腕時計で時間を確認する。もちろん時計はロレックスだが、バイク以外のことをまったく知らない周りの連中にそれを羨ましがられたことはないのがちょっと不満ではある。予定よりもかなり早いから南富良野でのんびり昼飯を食べてから旭川に向かえばいいだろう。みんなにそういってまた走り出す。

さて。ニセコの道の駅で一服していた酔っ払い5人は、朝日の陽射しがあまりにも心地よく、そのまま駐輪場で眠ってしまった。さすがにシゲも「ラーメン」とは言わずに疲れに負けて熟睡していた。
みんなが目を覚ますと昼すぎていたが翌日の夕方までに旭川に入ればいいのだから誰も焦らない。みんなでコーヒーを飲み、シゲだけは「特性ニセコ濃厚バニラソフトクリーム」を食べていたが、もう誰もそんなことに突っ込むこともなくだらだらと井戸端会議をしていた。
「北海道は何回目になる」
 まーちゃんが誰ともなく聞く。みんながそれぞれの回数を指折り数えて言うとシゲが楽しそうに話し出した。
「初めて北海道に来たのがハタチの頃なんだけどよ」
 そういってソフトクリームを大きく舐める。まだ国産中型バイクで自走してきた若きシゲは、バイクで溢れかえるような80年代の北海道を興奮しながらひとり走っていた。どこのキャンプ場もバイクでいっぱいで、どんな山の中でも予約なしで泊まれるライダースハウスなんてなかったような時代だ。
「キャンプ場にも女の子のバイク乗りがたくさんいてな。毎晩何かしらのロマンスが生まれるんじゃないかとワクワクしてな」
 シゲの話しに。
「テントの中で股間のテント張ってたんっすね」
 ミヤビがオヤジのようなことを言う。
「まぁ結局そんなロマンスもなくてさ、おまけにバイクの調子も悪くてキャブからオーバーフローでガソリンもれるしバックファイヤーはバンバンでな」
 初めての北海道の楽しさにすっかりやられたシゲはとことん貧乏な旅を続け帰る日程を延ばしまくっていた。気がつくとどこのキャンプ場からもバイクの姿は消えていき、それに比例するように旅の途中のシゲはどんどん薄汚くなっていく。そうなると親切だった地元の人たちも、なんだか汚いものを見るような目でみはじめ、相手にされなくなっていく。
 道ばたでキャブをばらしてゴミを取り除くとオーバーフローは止まったがバックファイヤーは鳴り止まない。プラグを掃除すると鳴り止むが50キロも走るとまた鳴り出す。プラグ代すらケチらなければならない旅に疲れ果てていたときに、今ではどこか忘れてしまった海沿いの小さな町を走っていた。
 信号待ちで止まっていると自転車に乗った地元の馬鹿そうな中学生がシゲのことを見つめていた。荷物を満載にしたバイクだからどこでもじろじろ見られたが、その中学生の見かたは尋常ではなかった。穴が開くほど見つめられていた。
 信号が青になると同時にそのガキの目の前から消えてやろうとフル加速しようとしたが、タイミング悪くプラグが駄目になりパンパンとみっともいない爆発音を撒き散らしながらトロトロとしか走らない。それでも自転車よりは早いが、信号のたびに赤信号というタイミングの悪さで、シゲが止まると追いついた自転車のガキが見つめるということを繰り返していた。
 何度かそれを繰り返し、やっと自転車をぶっちぎった。町の出口のラーメン屋の駐車場にバイクを止めてプラグを外して磨いていると、なんと息を切らした自転車小僧が追いついてきて、プラグ掃除しているシゲをじっと見つめている。
「ガキ。あっちいけ」シゲが怖そうな顔をしてもその小僧は顔色一つ変えることなく見つめ続け、しまいにはシゲと2メートルほど距離を置いたところに腰を下ろして見つめている。自転車を漕ぎ続けたからだろう、顔中に汗をかいてそれを拭おうともせずに。
「バイクが好きなのか」
 シゲがそう聞くと小僧は大きくうなずいた。
「じゃあ将来バイクに乗るのか」
 その質問でその小僧は初めて口を開いた。
「絶対乗る。ハーレーに乗る」
 シゲは自分が夢に見るくらい憧れているバイクの名前を口にした小僧が可愛くもあり、生意気にも見え一応頭を平手打ちで一発殴ってやった。その瞬間もう旅はいいかという気分に襲われ、横のラーメン屋でその小僧にもラーメンを奢ってやり食べ終わった後に販売機で250ミリの缶ジュースを一緒に飲むという久しぶりの贅沢をした。
「よし小僧お前がバイクに乗るようになったらまた会おうぜ。そんときはお前がラーメン奢れ」
 シゲはそういい残し走り去った。だがバックファイヤーは鳴り止まずその後姿は残念なことにかっこ悪かったが。
 道の駅でみんなにそんな話を聞かせたのは、まーちゃんの質問で忘れていたそんな記憶を思い出したからだった。
「よし。札幌に行って飯食おうぜ」
 そういって走り出す。みんなすっかり5号線で小樽を抜けていくのかと思っていたが、先頭のまーちゃんは道々66号線という狭い道に入っていく。その道はところどころダートが残り、苦労してそこを抜け国道230号に出てほっとしたのもつかの間。その国道はタイトなコーナーが連続する峠になるのである。そう。まーちゃんは執念深い。昨日のまたされた恨みを忘れていなかった。やっと北海道についたフィルシィ、ミヤビ、ホマレ、シゲはまーちゃんとはぐれたら道が分からないという焦りで必死に食らいつこうとへとへとにされていくのであった。
 物語はこうして佳境へ向かうのであった。
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by revolver0319 | 2010-09-16 18:11