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by revolver0319

走れ、はしれ

 岩手をすぎたあたりで風が一気に冷たくなる。最後の給油を済ませ東北道も終わり青森の港を目指すのみ。4台は順調に走りフェリー乗り場に昼に到着した。
「まーちゃんおれおれ。今青森だ。次のフェリーに乗るから3時には会えるな、もうチョイ待っててくれ」
 函館の港で一晩待たされているまーちゃんはアイアンの横で、お湯の中に直接コーヒーを叩き込む、荒っぽいがうまいコーヒーを淹れて4人を待っていた。3時なら旭川まで今日中に行けるな。しかも下道だけで楽勝だな。待たされすぎたまーちゃんは電話では文句は言わなかったが、真っ暗な北海道の道を旭川までかっ飛んでストレス発散しようと考えていた。しかもなるべくタイトな峠道を頭の中のナビで選ぶとひとりニヤニヤとしていた。
 その道は4人が「もう走りたくない」と根を上げても寒さで走りきらなければ、どうにもならないような道だ。もちろん道幅はUターンするのも厳しいくらいだし、フィルシィのサイドカーは進むしかできないようなところだ。まーちゃんをイラつかせるとはどういうことか。シゲは十分に分かっていたはずなのに過ちを犯したのである。
「よしよし、いい道があったぞ」北海道の道のすべてを知り尽くしているまーちゃんは取って置きのハードランを完璧に組み上げて、お湯の底に沈んだ挽いたコーヒー豆を残して飲み干すとまた少し笑った。
 ついた瞬間地獄のようなランに巻き込まれるとは知らずに、4人は短いフェリーでの船旅を楽しんでいた。そう。楽しんでしまっていた。
 フェリーが函館に着くと、まーちゃんはアイアンに火を入れて暖気をする。何しろこれから旭川まで一気に走るのだ。それに3時間後までには最後のスタンドがある街まで行かなければ、ガソリンが持たないので誰がなんと言おうと3時間で300キロ以上を走ることになるのだ。エンジンをかけると軽く屈伸をした。
 シゲのショベルを先頭に誉、ミヤビ、最後にフィルシィの順番でフェリーから出てきた。挨拶だけ済ませてすぐさま走り出そう。まーちゃんの計画はシゲと握手した瞬間にもろくも崩れた。
「やー。まーちゃん待たせたね」
 そう言ったシゲの口からはとんでもないアルコール臭が漂ったかと思い、握手をした瞬間にシゲが横を向いて吐いたのである。しかも大量に。
 初対面である誉やフィルシィはそんなシゲを心配することもなくまーちゃんに挨拶すると「どこにテントを張れば良いですか。どこがいいのでしょうか」と一応は初対面だから気を使っているのであろう、駄目な酔っ払いの口調で聞いてきた。
 ミヤビの説明によるとこうだ。
 フェリーに乗った瞬間、今日はまーちゃんとおそらく札幌までは走るだろうから、ビール1本だけお疲れということで飲もうとなった。しかし数秒で1缶を飲み干したシゲと誉が「自己責任」なんて言い出して2本目に手を出したのである。
 ここまでの文章を読んでフィルシィがしっかり者なんて思っている人もいるかもしれないが、しっかり者は本気でアウトローバイカーになろうなんてしない。酒を飲んで人を殴らなくなっただけで、酒は大好きなのである。二人が飲んでいるのをみて我慢できるはずもない。
「ミヤビ。売店にあるビール全部買って来い」最終的にそう言ったのはフィルシィである。3時間の船旅で売店の缶ビールを飲みつくしたのである。シゲはその後ワンカップ5本を「締めだから」と呂律も怪しく言いながら飲んだのである。
 走れるはずもなかった。フェリーから無事にバイクを出せただけでも奇跡だった。吐いて倒れたシゲをみんなで草むらに転がして一応寝袋をかけてやり、みんなはフェリーのターミナルの建物の中で一晩寝て酔いを覚ますことになった。
 まーちゃんは気持ちよさそうに寝ているシゲの顔にまたがり一発屁をかますと、ターミナルの売店でビールと鮭トバを買って飲みだした。
「こいつらには要注意だ」自分にそう言い聞かせながら。
 
何しろフェリーから降りてそのまま寝てしまったのが午後3時である。夜中の2時に寒さで目を覚ましたシゲは他のメンバーを探したが見当たらない。バイクはあるから置き去りにはされていないことは分かったが、そこがどこだかを思い出すのに15分かかり、猛烈な喉の渇きでふらふらと立ち上がるとフェリーターミナルに飲み物を求めて歩いて行く。
販売機で水と緑茶とコーラの3本を一気に飲み干すと、どうにか落ち着きを取り戻し、その場でもう一度眠ろうとしたが眠れない。ベンチで眠っているまーちゃんを見つけると気持ちよさそうに寝ているのにぐいぐいと身体をゆすりお越しにかかる。
「何時だよ」まーちゃんが目をこすりながら聞くと。
「まーちゃん久しぶりだな」とフェリーから降りたときの挨拶をすっかり忘れているからもう一度挨拶をすると。
「腹が減ったからラーメンを食べに行こう。どこかラーメン屋あるだろ」なんて言い出した。
「いや。だから今何時なの」殴ろうかと思ったが我慢してもう一度聞く。
「2時」つまらなそうにシゲが言うと。
「函館にはそんな時間にやっているラーメン屋はない」そう言ってまた眠ろうとする。
「じゃあ面倒だからススキノまで走ろう。そうすればあるよラーメン屋。そんでまーちゃんの家で寝よう」
 言うが早いかシゲはみんなを叩き起こした。
「皆様出発です。これから札幌まで走ります。ノロノロしていないで5分で準備してください」
 秋の北海道。道南とはいえ夜中の3時ごろである。全員ぶるぶると震えながら国道5号線を走る。しかも「寒いからさっさと行こう」と先頭のまーちゃんはビュンビュン飛ばす。
「ラーメン、ラーメン」シゲだけは元気である。
「死んでしまえ」全員がシゲに対してそう思っていた。
 羊蹄山が見えたころ東の空が紫にかわり、広い空を見たこともないようなきれいなグラデーションで染めて行く。吐く息は白く寒さは変わらないが、その瞬間「来てよかった」と全員が思っていた。
 太陽が顔を出すと、今まで見えなかった雄大な大地が姿を現す。どうにか北海道にたどり着いた。ニセコの道の駅で熱い缶コーヒーで一服するがみんな口数が少なかった。それぞれがそれぞれの思いを噛みしめていた。
「やっと来たぞ」
「もうすぐだ」
「全員が揃えば本当に復活だ」
 ひとりひとりが熱い思いを胸に、目の前に広がる景色を見ていた。
「腹減ったな。早くラーメン行こうぜ」
 フィルシィが杖を握りなおした瞬間シゲはその場から素早く逃げて、みんなに見られないように目を擦った“走れ、はしれ”そう呟いて。
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by revolver0319 | 2010-04-27 18:24