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by revolver0319

走れ、はしれ

 それではこの辺で、このおかしな連中が旅に出た理由でも説明しよう。「走りたいから」なんていう理由だけでは、大の大人が社会の枠から飛び出すには重みがなさすぎるだろう。

 ミヤビの場合。
 この若者の人生を狂わしたのは北海道ツーリングだった。それまでは先祖の墓のある鹿児島に向かい、九州を旅するのが毎年夏の恒例行事だったが、何を血迷ったか「たまには北にも行ってみたい」なんて考えてしまったのだ。
 東京の下町で生まれ育ったミヤビは残念なことに「学校の勉強」というジャンルに集中することができず、それならと腕力方面にその能力すべてを注ごうと考えたのが小学生のときだった。なので小学校4年生から「あのこと遊んではいけない」部門で常にナンバー1の座を明け渡さずにいた。しかし、親の気持ちなんてものを理解する子供なんてそうそういるはずもなく、ミヤビの周りにはいつも悪ガキどもが集まっていた。
 確認のために書いておくと「頭がいい」=「学校の勉強ができる」だと思っているバカが多いが「学校の勉強ができる」=「損得勘定だけで生きられる」でしかないことは、これを読んでいる人なら知っているだろう。
 悪がき集団が生きていくのに避けて通れないのが「対立」である。力で勝つか負けるかの分かりやすいものもあれば、それぞれの先輩や地元勢力なんていう政治力で戦わずして勝負がついていることもある。その中でも負けるしそれをすることで敵が倍増してしまうが、やらなければならない戦いもある。そんな繰り返しの中で、何が正しく何が間違えているかの判断力が鍛えられる。その判断力こそ「頭の良さ」だったりする。だからミヤビは幼少からそんな環境で育った頭のいい男でもある。
 ハーレーという乗り物を選んだことも、それをバックボーンに生きようと考えたことも頭がいいからである。
 その頭のよい男がなぜか北海道を選んでしまった。その夏の北海道を楽しみ、順調に走っていたが旭川の街に入るとなぜだかバイクがぐずり始めた。この年だけ行かなかった墓参りをさぼったから先祖の怒りをかったのか、ついにはバイクが止まってしまった。
 ツーリング先でバイクがトラブルよくある話かもしれない。しかしそこが旭川という街で会った偶然。そして道端のミヤビを見つけ、止まったハーレー乗り。でかい身体でいかつい男。
“知らない街だし絶対に手を出すな”
 その男を見たときにミヤビは自分に言い聞かせていた。それほど身体のでかいその男は危険な香りを漂わせていた。
“きっとケリからくるな。両腕で顔面をカバーして、立ち上がって逃げるしかないな。襟首をつかまれたら仕方ないから一発だけショウテイを入れた走る”ミヤビがシュミレーションしているうちに男は近づいてくる。腕を伸ばせば簡単に殴れそうな距離に近づくと。
「どうした。トラブルか?」
 男は身体に似合わない優しい声で聞いてきた。背中には2本の斧がクロスしたカラーを背負っていた。
 男の名前はT「ハチェットハックス」というMCのボスだった。
 数年間かよった九州をやめてたまたま北海道に走った。
 たまたま旭川でトラブった。
 たまたまTが通りかかった。
 悪魔の仕業という言葉以外の例えがあるなら教えてもらいたいぐらいだ。こうしてミヤビはターキィーの元へ行くことになり、その厄介なカラーを背負うことになる。頭のいいミヤビがやらかした人生で最悪の失敗といえるかもしれない。
 そんなこんなでミヤビは北海道に縁ができるのだが、それ以降毎年夏には旭川に走っているのだから、今回の旅にでる理由にはならない。
 それを紐解くには彼の実家の話からしなければならない。かれの家は代々続く厄介な家業なのである。内容はそれだけで小説の5冊くらい書けてしまうのだが、今回はそんな時間はないので省く。ともかくその家業を継ぐのか、それとも自分のやりたいレザークラフトの仕事をやるのか、そんな分岐点に立たされていた。
「昔はよかった」
 今の時代どんなものにでもその言葉は当てはまるが、ミヤビの実家の家業にも当てはまる。地元のみんなとうまくやり、一般人が困ったことを解決してきた。そんな家業でも大きな家の当主は「一日警察署長」なんてことをやったこともあるのだ。それがどうだ。好き勝手に中国人やら分けの分からない国の人間を入れてしまってめちゃくちゃにされると暴対法、指定団体、等などの締め付けに躍起になってくる。
 検挙率を高めるには検挙しやすいところを挙げる。そんなくだらないやり方を押し通す警察。ついにはミヤビの父親にその毒牙が迫ってきた。戦うこともできずに負ける戦いなのは分かっている。だけど父親をみすみす渡すわけには行かない。
「俺が行ってくるよ」ミヤビが宣言した。もちろん父親もその子分たちも反対したが、自分が何をすれば世の中が良くなるかを知り尽くしたミヤビである。それを無理に押し通した。参考人から重要参考人に。任意から逮捕へ。ミヤビが拘束され拘置所から一時保釈。裁判が始まり半年後の結審が決まったそんな時期だった。最悪懲役。よくて執行猶予。
 そんなときにシゲから連絡が来た。
「ミヤビ。北海道に行くぞ。準備しとけ」
「都合は?」とか「行けるか?」ではない。国家レベルの嫌がらせでも裁判があり三権は独立し人権を守るふりをするのにシゲの言葉には余地がない。それでも事情を知っているから誘ってくれているのだろう。それにシゲは最後に嬉しそうに、こう付け加えた。
「フィルシィが走り出す。来年まで待てねえからすぐに行こうぜ。アニキに会いに」
 目頭が熱くなった。
「行きますか」笑い泣きの声で答えた。
 だから足リ出している。
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by revolver0319 | 2010-04-21 01:53